今日くらいは - 2/2

 騒がしいのは嫌いだ。

 だから、誕生日ではしゃぐ人間のことが理解できなかった。たかが誕生日――しかも、他人の誕生日など。いや、今でも少しはそう思っている。やれパーティだの、やれケーキだのプレゼントだのといちいち大袈裟ではないか。そんなことに労力を費やす暇があるなら、もっと仕事やレッスンに時間を割くべきだ。

 昔はそう考えていたのに。己の誕生日など意識すらしていなかったのに。今ではどうだ。日付を見ただけで、あの二人の顔が浮かんでくるようになっている。

 だからだろうか。事務所の中が何やら騒がしいと思ったところで、今日の日付を思い出した。僕はドアの前で立ち尽くす。

「桜庭さん」

 事務所に入ってもいいものか思案していると、僕を呼ぶ声が聞こえた。そういえば、僕のことを祝いたがる人間がもう一人、ここにいた。

「どうせあの二人が何か企んでいるんだろう。毎年のことだ。流石に僕だってそれぐらいは察している。それに……」

「それに?」

「……別に、嬉しくないわけじゃない」

 僕の言葉を聞いて相手の顔が緩む。今日くらい、少しは素直になっても良いだろう。

「さあ、お二人が待っていますよ」

 そういって事務所のドアが開かれ――

「「桜庭(薫さん)、誕生日おめでとう(ございます)!」」

 ――嫌というほど聞き慣れた二つの音色が、僕を温かく出迎えた。