木星の輝き―運命光年という曲について - 3/3

2.Jupiterが嫌いだったエンジェル君


 突然だが、俺はエンジェル君だ。
 別に自分が天使であると言っているわけではない。Jupiterのメンバーである伊集院北斗がファンのことをエンジェルと呼ぶため、そう自称しているだけだ。

 俺は元々Jupiterは好きではなかった。というか、はっきり言って嫌いなタイプだった。961プロからデビューした彼らだが、デビュー当初から様々な媒体で取り上げられて注目を浴びていた。しかし、人気アイドルというのは裏を返すと、彼らのことを快く思わない者も多くいるということだ。いわゆるアンチと呼ばれる奴らだ。俺はどちらかというとそちら側の人間だった。俺の中では、当時のJupiterはどうにも「チャラチャラした奴ら」という印象が強くあまり好きになれなかったのだ。

 こんな俺がJupiterの(とりわけ北斗の)エンジェルへと掌を返したきっかけとなったのが、友人が誘ってくれたライブだった。その友人とは大学で知り合ったのだが、なんでも961プロ時代からJupiterを追っ掛けている筋金入りのファンだそうで、Jupiterの話をする時は高確率で泣いている。315プロダクションのユニットが全員揃うライブがあるから一緒に行こうとチケットを渡してくれた。
 正直なところ、Jupiterも出演するという事で少し悩んだが、315プロに移籍した後の彼らの姿に興味が無かったわけではなかった。既に315プロのアイドルとして様々な仕事をしていたこともあり、今なら彼らのことを色眼鏡無しで見ることが出来るのではないか。そう思い、友人の誘いに乗ってライブ会場まで足を運んだ。
 そこで目にした光景は正に「圧巻」だった。15ユニット46人全員が1つの同じステージに立っている。当時のまだ315プロについて全く詳しくなかった状態でさえ、これは凄いことなんだ、「奇跡」のような出来事だと思ったのだから、昔からのファンなら感涙していたに違いない。
 どのユニットもそれぞれの個性が光っていた。例えばDRAMATIC STARSというユニットは3人とも歌唱力が高く王道ながらも大人の魅力があったり、THE 虎牙道というユニットは元格闘家ユニットという事もあってか間奏の殺陣が凄まじかったり、F-LAGSというユニットはあの、あの秋月涼が男性アイドルとして活躍している姿に感動しつつ、他の2人の魅力も最大限に引き出されていたりと、それぞれのユニットについて語り出したらキリがない。
 それでも、一際目を離せなかったユニットがあった。それがJupiterだ。彼らのパフォーマンスは他のユニットとは一線を画していた。もちろん、Jupiter以外のユニットも彼らと同じくらい魅力的だったが、歌やダンスだけではない何かがJupiterの中にあった。しかし、決定打となったのは、デビュー曲の「Alice or Guilty」から315プロとしての再デビュー曲「BRAND NEW FIELD」へと続けて披露されたことだった。彼らの変化した姿と、それでも変わらない「アイドル」としての気概が感じられた。ライブが終わった頃にはすっかりJupiterの虜になってしまっていた。

 そんなわけで、俺は今Jupiterの新曲である「運命光年」を聴いている。試聴が公開された段階では「またこいつら良い曲歌いやがって……」なんて思ったわけだが、フルバージョンを聴いて少し印象が変わった。いや、良い曲なのに変わりはないが、少し心に刺さった箇所があったのだ。

 「言葉 加速し過ぎて 開けてしまったクレーター」

 2番冒頭、この歌詞にギクリとした。961プロ時代のJupiterに対する自分の事を言われたような気がしたからだ。しかも、一番の推しである北斗に、だ。

 直接何か害するような事をしたわけではないが、彼らがメディアに出ているのを見かけては心ない言葉を投げかけていた。クレーターを開けてしまっていたのはむしろ俺の方だった。
 その後に「塞がるまで怒っていいぜ ごめんって届けさせて」なんて言われたら頭が上がらなくなった。器がデカすぎる。ごめんって言いたいのはこっちの方だ。

 木星の引力は凄まじく、地球を彗星や小惑星などの衝突から守ってくれているらしい。跳ね返されても手を繋ごうとする生意気な引力とはこういう部分にも掛かっているのだろう。その引力に惹かれて俺もエンジェル君になったわけだ。

 宇宙の謎について人類は5%も知らないと言われているみたいだが、俺もJupiterというユニットについてまだまだ知らない部分が沢山あるんだなあと感じた。俺様系だと思っていた冬馬が実は可愛いところがあったり、国民的弟と言われている翔太はしっかり者であったりとか、軟派で一番苦手だと感じていた北斗がJupiterに対して熱い気持ちを持っていたりなど、ファンになってから分かった事だ。恐らくこれらは961プロ時代にはなかった、315プロで再スタートしたからこそ見せられるようになったのだと思う。きっと、ファンである俺たちにも見せていない一面があるのだろう。俺にとっての「眩しいキミというMystery」とは正にJupiterのことだ。

 最後まで聴き終えた感想だが、この曲はラブソングであると同時に、ファンとJupiterとの関係性を表していると感じた。特に俺みたいに元々Jupiterに対して良い感情を持ってなかった奴なんかはドンピシャだと思う。絶対にファンを手放さないという彼らの固い決意のようなものを歌っている。

 これからも、俺はJupiterのエンジェル君でい続けるんだろうな。だって木星の引力に勝てるわけがないのだ。彼らは芸能界という銀河の中で一等輝き続ける惑星(ほし)なのだ――。
 こんな事を思いながら、俺は今もなお木星を追い続ける友人に電話をかけた。