アキナオハロウィン - 2/2

「今日が何の日か知っているかい? あきたこまち後輩よ」

 十月三十一日。バイト終わりの帰宅途中。突然ナオ先輩に問いかけられる。

「もちろん、ハロウィンですよね」
「なら、私が何が言いたいか分かるよね?」
 ハロウィンの定番と言えば、アレしかない。
「お菓子ですか?」
「正解。ということで、トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ、こわ〜い先輩がイタズラしちゃうぞ〜」
 こわ〜い、と俺を脅かそうとするが、全くと言って良いほど迫力がない。
「そう言われるだろうと思って、ちゃんと準備しておきましたよ」
「流石! 用意が良いね」
「今朝起きて真っ先にヒカリにねだられましたからね」
「あはは。あの子もちゃっかりしてるね」
 二人が仲良さそうで安心したよ、と言われる。ここ最近色々あったけど、平穏な日々を過ごせるようになって本当に良かったと思う。
 感慨に耽っている俺をよそに、ナオ先輩はカボチャのクッキーが入った袋を見ながらうーんと唸っていた。
「でも、こうもあっさり渡されちゃうとちょっとつまんないなあ」
「別に良いじゃないですか。っていうかイタズラって何をするつもりだったんですか?」
「……聞きたい?」
 イタズラっ子のような笑みで俺を見上げてくるナオ先輩。何故だか背筋に薄ら寒いものが走った。「いえ、遠慮しておきます」
「ん~、高校生にはちょっと刺激が強いかもね〜」
「なんですか、ソレ」
 むふふ、と口に手を当ててニヤニヤするナオ先輩。彼女に良いようにされてるみたいで少し面白くない気がしてきた。そっちがその気なら、俺だって。
「トリックオアトリート! です!」
「……ん?」
「ナオ先輩がお菓子をくれないなら、俺が先輩にイタズラしちゃいますよ!」
「ふっふっふ、このナオさんが何も用意してないなんて……ってアレ?」
 余裕綽々といった具合にリュックの中をゴソゴソと探すナオ先輩。だが、お菓子らしき物が出てくる気配が一向にない。

「あちゃー、アキくんの分だけ忘れてきちゃったみたい」
 しまった、という顔で額に手を当てるナオ先輩。よく見かけるポーズだ。
「俺のだけって、そんなことあります?」
「そう言われても、忘れちゃったものは仕方ないし……あ、そうだ」
「どうしました?」
「せっかくだし、さっきアキくんがくれたお菓子を分けてあげよう」
「それ、色々おかしくないですか?」
「細かいことは気にしない!」
「俺、自分で作ったヤツを貰うのか……」

 そう言いながらお菓子の袋を開けるナオ先輩。クッキーを一枚つまんで俺の手に……渡るはずが、いつまで経っても彼女の手から離れなかった。

「えっと、先輩?」
「口、開けて」
「……え!?」

 予想だにしなかったことを言われ、困惑から思わず口が開いた。その隙に、ナオ先輩が俺の口にクッキーを放り込む。

「むぐぐ」
「ナイスキャッチ! 味の方はどう? 美味しい?」
「……昨日の夜に散々食べた味ですね」
「あはは、それもそうか。アキくんの手作りだもんね」
「結局、俺が先輩にイタズラされてるじゃないですか」
「ということで、はい」

 俺の目の前に袋が差し出されたので思わず受け取ってしまう。リボンで可愛らしくラッピングされていた。

「これ、お菓子じゃないですか!?」
「えへへ。実はアキくんの分だけ忘れたっていうのは嘘でした」
「じゃあ何で」
「普通に渡すなんて、やっぱり面白くないなあと思って」
「そんな理由で……」

 やっぱり、この人には敵わない。