「これ、なーんだ?」
放課後、ストレイキャットにて。ナオ先輩と修行という名のファイトの後、俺の目の前に一つの袋が差し出された。
「プレゼントですか?」
「そうそう」
「随分ラッピングに気合いが入ってるみたいですけど、相手は誰なんですか?」
そう訊いた途端、ナオ先輩はきょとんとしてしまった。……もしかして俺、何かマズイことを言ってしまったのか?
「……それを私に言わせるのかい? 君は」
「うーん?」
そう言われても、思い当たる人物が……いや、一人だけいた。でも、その人の名前を口にするのはなんだか気が引けてそのまま黙ってしまった。
「まだ気付かない? 君も見かけによらず悪い男だねえ」
「?」
「君だよ、渡そうと思っている相手は」
「……えぇ!?」
ただの好奇心で訊いたつもりだったのに。まさかの答えが返ってきて、自然と俺の鼓動が早くなる。
「俺が、貰っても良いんですか?」
「もちろん! そのために用意したんだから」
「あ、ありがとうございます!」
ナオ先輩からプレゼントを受け取り舞い上がりそうになる。でも、俺にとって少し、いや、かなり気になることがあった。
「その……これって“あの人”にも渡してるんですか?」
「もしかして、カゲくんのこと?」
「!!」
「安心して。それは君にしか渡してないから」
「ほ、本当ですか!?」
奇跡降臨! 心の中でガッツポーズをする。あまりの嬉しさに思わずディヴァインスキルを発動してしまったが、まあレザエルも許してくれるだろう。多分。
表情に出したつもりはなかったが、俺の様子を見てナオ先輩は少し驚いているみたいだった。
「そんなに嬉しかったのかい」
「ナオ先輩からのプレゼントなんて、嬉しいに決まってるじゃないですか!」
「……そうハッキリ言われると、少し恥ずかしいというか」
ナオ先輩は少し照れ臭そうに頬をかきながら、不意に距離を詰めてきた。
「ちなみにそれ、手作りだから」
「!!」
「そんなに喜んでもらえるなんて、頑張った甲斐があったよ」
手作り? 先輩の? “あの人”じゃなくて、わざわざ俺だけのために……?
「……」
思わず黙り込んでしまい、二人の間にちょっとだけ甘い空気が流れる。そんな時間が永遠に続くかと思われたその時――
「あの、お二人さん? とても良い雰囲気の中悪いんですけど、そろそろ閉店なので……」
「「!!」」
――俺達二人の間に、この店のバイトであるメグミさんの声が響く。気付かないうちに閉店時間が迫っていたみたいだ。
「すみません。すぐ片付けますね」
「邪魔しちゃったみたいでごめんなさい」
「いいのいいの、こっちこそごめんね。それでさ……」
「はい?」
「メグちゃんの方はどう? “本命”には渡せそう?」
「ナオさん!? わ、わたしのことはどうでも良いでしょ!?」
「だって気になるんだもん」
「大体、アニキとはここ数ヶ月会えてないし……」
「アニキ?」
「ってうわあああああ! 今の忘れて!!」
なんのことかよく分からなかったけど、真っ赤になったメグミさんはいそいそとバックヤードに戻ってしまった。
*
閉店時間となりアキナとメグミと別れた後で、ナオはぽつりと呟く。
「君だけ、アキくんだけなんだよ。だってキミは――」